51人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ
4.告白 そして
あの取材の日から五年の月日が経った。
まだ、私は生きている。しかも現在、私は三木伸介と付き合っている。
みきと死ぬ。
そう予言されていながら。
彼と付き合う限り、五月九日の呪いは私について回る。それはわかっている。
でも私は彼と別れられない。そんな子どもの時分の真実かどうかも定かではないお告げで別れを決めるのはやはりおかしいと思うし、なにより私は彼のことを愛し過ぎていた。
ただやっぱり時々、呪いについて考えてしまうときがある。
あの日のあのお告げが本当に神霊によるものなのか、それともみきかやよい、あるいは私自身の無意識が言わせたものなのか。
神霊のお告げは怖い。けれど、私たち三人の無意識からの言葉じゃなければいいとも思う。そこまで疎まれていたというのはやはり……哀しすぎる。
私が彼と別れないのは、真実をしっかりと見極めたい、そんな思いがあるからかもしれない。
そうして今年も五月九日がやってきた。
この日はお互いに仕事が休みだった。
編集の私もサービス業の伸介も共にカレンダー通りの休みを取れることなどまずなく、すれ違いも多かった。会う時間を確保するため早々に一緒に暮らし始めた私たちは、休日はもっぱら家でのんびりが定番だったが、伸介の提案で今日は彼のおすすめのイタリアンレストランで夕食を取ることになった。
正直、気が乗らなかった。五月九日だし、家から出たくない気持ちもあった。が、さすがに理由を言うこともできなくて私は伸介と共にレストランへ向かった。
「イタリアン作ってるのに、休みの日もイタリアンって。飽きないの?」
「人生は日々探求。味もまたそう。むしろ休みの日は自分以外の味を知ることができるチャンスだからこういうのは大歓迎」
朗らかそのものの伸介の顔を見つめながら、私は背筋を丸めた。
「ごめんね。私が出不精だからあんまり外に食べにも行けなくて……」
「いいって。さやが行けないときはひとりで行くし。気にしないで」
伸介はいつも明るく優しい。
私とはまるで違う。前向きで過去の記憶に縛られていたりもしなさそうだ。
出かける前、五月九日だからどうしようかな、と迷った自分が恥ずかしくなってきた。
そもそもいつまで捕らわれ続けているのだろう。
予言されてからもう十五年。さすがに気にし過ぎだ。
そう思ったら、胸にしまい続けているのもばかばかしくなり、私はテーブルの上のワイングラスを持ち上げると、ぐいっと飲み干してから言った。
「実はさ、私、ずっと気になってることがあるの」
「なに?」
のんびりといつも通りの柔らかい声で言いながら、伸介はピザカッターでピザをカットしている。目線はピザに注がれたままだ。なんでもない世間話のように聞いてくれるのが、かえって良くて私は気軽な口調で続けた。
「私さ、毎年五月九日が怖いんだよね」
伸介は黙々とピザを切っている。私はワインをボトルから自分のグラスへと注ぐ。
「中学のときにね、その……ほら、コックリさんっていうの? あれやって。そのときさ、言われちゃったんだ。五月九日に死ぬって」
伸介はやはり無言だ。あまりにも黙っているのでさすがに不思議になり、伸介? と名前を呼ぶと、伸介は切り分けたピザのひとかけらを皿に移して私に押しやってきた。
「冷めないうちに」
「あ、うん」
頷いてピザを手に取る。伸介を見ると、促すように目を細めて微笑まれた。恐る恐る口に運ぶ。パン生地タイプのピザでふわっとしていて私の好みだった。
おいしい、と呟いたときだった。
「俺もなんだ」
不意に声がテーブルの上に投げ出される。ピザを頬張ったまま彼を見ると、伸介は目を細めたまま囁いた。
「俺もね、昔、コックリさんやったんだ。そのとき言われた」
「な、んて……?」
やっとのことでピザを飲み下し、私は落ち着きなくワイングラスを手に取る。グラスの中、ワインがちゃぷり、と揺れた。
「五月九日、ゆきと死ぬって」
最初のコメントを投稿しよう!