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3.十年後のみき
高校を卒業し、大学に進学し、その後、雑誌の編集プロダクションに就職し、十年が過ぎた。
私はカレンダーを見つめ、顔を歪める。
もうすぐ五月九日がやってくる。
あれは神霊の仕業ではないと私は思っている。思っているはずなのに、私は今でも五月九日が来ると身構えてしまう。
今年は大丈夫だろうか。何事も起こらないだろうか。
そう不安になるたびに自分を諫める。
なにを非科学的なことを言っているの、大丈夫、もうみきとは会うこともない。死ぬはずなんてないでしょ、と。
そうこうするうちに、今年も五月九日がやってきた。
雑誌のパスタ特集のため飲食店を取材していた私は、その日最後の取材先のイタリアンレストランを訪れていた。
「お忙しいところお時間をいただきありがとうございます。瀬山と申します。どうぞ本日はよろしくお願いいたします」
いつも通り丁重に名刺を差し出した私に、背が高く目鼻立ちの整った店長は微笑んで自身の名刺を差し出した。
その名刺に書かれた名前に私は言葉を失った。
三木 伸介。
「みき……」
呟いた私に、三木はにっこりと爽やかに微笑んで言った。
「はい。よろしくお願いいたします」
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