5.予言は

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5.予言は

「それ……」  唖然とした私をしばらく見つめてから、伸介は唐突に破顔した。 「めっちゃ怖いだろ? そう、だから俺もさ、五月九日ってちょっと特別だったんだよ。ああ、今年も無事だったあ、みたいな。そもそもゆきって誰だよ、って。だからもう仕事でゆきって人と会うと心臓バクバクすんの。え、俺、この人と死ぬのかな? いやいやでもまさかって。けど驚いたな。まさかさやまでそんなこと言われてたなんて。すごい偶然だよな。五月九日ってなんかあるのかなあ」  あっけらかんと伸介は言い、ワイングラスを傾ける。  曖昧に笑いながら私は伸介に問いかけた。 「あの、さ、じゃあ伸介はさ、ゆきって名前の人を好きになったらどうするつもりだった? やっぱり、付き合うの、やめた?」 「え?」  きょとんとした顔で伸介は私を見返してから、うーん、と唸った。 「どうだろう。そもそもあんなの根拠のないお遊びみたいなものだろ? それで付き合うのやめるってことは最初から好きじゃなかったってことじゃないかなあ。え、なに? さや、なにか気にしてる? 大丈夫だって。俺にはさやしかいないし」 「ううん、大丈夫。ありがと」  伸介は笑顔で今度はパスタを取り分け始める。繊細なその手つきを呆然と見つめる私の前で、ただ、と伸介が呟いた。 「ちょっとだけ、そうだな、さやがゆきって名前だったらちょっとだけ運命的だなって思ったりはするけど」  からからと笑ってから伸介は、ワインおかわりしちゃおっか、と茶目っ気たっぷりに提案してくる。  その彼に頷きながら私はそっと、ワイングラスを唇に当てる。  そうしないと震えた唇を見られてしまうと思ったから。  私の名前は、瀬山さや。  ゆきじゃない。  でも……中学時代、まだ父と母の婚姻関係が続いていたときの名前は、  湯木さや。  ゆき。  これは、運命なのだろうか。  やはりあれは神霊のお告げで、私たちは共に死ぬ運命にあるのだろうか。  もしもそうなら私たちは一緒にいない方がいいのだろうか。  ねえ、伸介。  私はテーブルの向こうでパスタをフォークで巻き取りながら話し続ける伸介に心の内で呼びかける。  あなたは私が「ゆき」だと知ったら、どうする?  運命的だって言って笑ってくれる?  それとも死を恐れ、私から離れようとする?  私は、あなたが出す結論が怖い。  それくらい、私はあなたが好きで、あなたから離れたくない。  私がそばにいたらあなたまで死んじゃうかもしれないのに。  私はなんて、ひどい女だろう。  そう思うのに、それでも、私は。  「さや? どした?」  心配そうな顔をする伸介に私はそっと笑む。  ああ、私は死の予言が怖い。怖いけれど、それでももしも彼が「三木」でなかったら、私は伸介に興味をいだかなかったかもしれない。  だとしたらあの予言は私にとってキューピットだったのかもしれない。  愛しているならば離れるべきなのに。なのに。 「さや」  伸介が私の目を覗き込む。 「大丈夫。死なないから。俺たちは死なないよ」  突然告げられた言葉に私は目を見開く。底が見えてしまいそうな純度の高い目で私を見つめ、伸介はゆっくりと柔らかく笑みを濃くして、こちらに向かってメニューを差し出した。 「さやの好きなワイン、選んでいいからね」
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