16人が本棚に入れています
本棚に追加
【朝顔と暁2】光芒
月を眺めて一服している槿の真後ろに座り込み、肩口に額を押し付ける。
「どうしたのヒカルちゃん」
「槿さん、あんまり私にしないでほしいんです」
それを聞いた槿は煙草を灰皿に置き、空いた手で肩に置かれたヒカルの頭をそっと撫でた。この手はいつだってヒカルを甘やかす。これ以上、自分を駄目にしないで欲しい。
「どうして?」
「私はね、一人で地味に生きてあっさり死ぬ予定だったんです。大叔父様いなくなちゃったし」
未だ初恋を引きずっている恋人に、槿は何も言わない。しかし、彼女の頭を撫でる手は止めなかった。
「それなのに槿さんと会っちゃった」
ヒカルには眩しすぎるくらいに真っ当な彼が、事ある毎に自分を呼ぶのだ。珍しい動物が見た。あの料理が美味しかった。今度一緒に食べに行こう。一緒にテレビ観ていいか。今度出かけないか。槿はヒカルと色々な事を共有したかった。まるで殻に引き籠もったまま朽ちていこうとしている自分を現世に引き戻すかのように。始めは強引さに負けてしぶしぶ付き合っていた。しかし、それがいけなかった。
「気が付いたら、私一人じゃ生きられなくなってた」
楽しい事、腹が立つ事、美味しい物、面白い事、何かあれば槿と分かち合いたいと思うようになっていた。
「このままじゃ私、槿さんに捨てないでって縋りたくなっちゃう。――だからもうこれ以上、優しくするのは辞めて欲しいんんです」
ツンと鼻の奥が痛むのを感じる。いい歳した大人が泣くなんてみっともない。愚図つくヒカルとは対照的に、槿は上機嫌そうに肩を揺らして笑った。一頻り笑うと、グイグイと後ろに座るヒカルに体重をかけ、遂にバランスを崩した彼女を腕に収めた。
「ヒカルちゃん、幸せは怖いものじゃないぞ。それに、一人で生きていたいと考えていた君を変えたのは、俺なんだ。君が俺に縋ってくれるのはもちろん嬉しい」
自分の背に回されようとしていた手に己の指を絡ませる。そしてヒカルの顔を覗き込み「それから」と続けた。
「俺の事好きなのはちゃんと解ってるけど、もっと言ってくれ」
最初のコメントを投稿しよう!