16人が本棚に入れています
本棚に追加
翁草の照準2
「――叔父さん、この子が私達の娘です」
篝火は当時三歳だった彼女を腕に抱くまで、気付かなかった。
「初めまして、私は大宮篝火。君のお祖父さんの弟だよ」
目線を合わせるようにしゃがみ込んで、手の甲に口付ける。一瞬驚いたように目を開いて、そしてくすぐったそうに笑顔を浮かべた。まるで、少女の周りに本当に花が咲いたのかと思った。ろくに言葉を交わさないまま、笑顔だけで篝火を魅了した。嬉しいのと同時に、苦しい気持ちになるのは、どうしてなのだろうか。
「君の名前を私に教えてくれるかな?」
躊躇うように愛らしい眉を寄せ、そして後ろの母に顔を向ける。了承の意味と解釈しても良いのだろう。母親はにっこりと笑い、そして頷いた。
「私の名前はね、」
彼女の名前を忘れない。ずっと、永遠に。愛しい運命の番を、けっして忘れはしない。だから、だから。君の笑顔で、私を満たしてくれ。彼女が傍に居る事で自分は退屈から救われる。そして彼女の為に、自分は何が出来るだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!