6人が本棚に入れています
本棚に追加
水無瀬市の公立高校の制服は、どこも似たり寄ったりだ。男子は学ラン、女子はセーラー服。私立だと男女共にブレザー。
セーラー服自体は好きだったけど、ブレザーの制服に憧れがあったのは否定できない。ドラマで出てくる高校の制服って大抵がブレザーだった。
その彼が来ていたのは学ランだった。金ボタンに刻まれた校章は南陵のものだ。市内有数の進学校の一つだ。
彼はいつもその時間に乗っているわけではなかった。高校生にして坊主頭のその彼は、恐らく野球部。きっといつもは朝練があるから、もっと早い電車に乗ってるんだと思う。
テスト期間は我が西高とほぼ同じみたいで、その期間だけ私と同じ車両に乗っている。テスト前って憂鬱だけど、彼の顔が見られるなら悪くない。
彼とは何度か目が合ったことがある。何のことは無い。私が彼をじろじろと見ていたからだ。きっと視線を感じたんだと思う。
声なんて、掛けられない。彼と私に、共通点なんて無いもの。あるとしたら、今この電車の同じ車両に乗っているという事実だけ。
目鼻立ちのはっきりした、整ったそのお顔を見ているだけで。心地良い低音が鼓膜を響かせてくれるだけで。それだけで、私は満足していた。
最初のコメントを投稿しよう!