電車の恋

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水無瀬市の公立高校の制服は、どこも似たり寄ったりだ。男子は学ラン、女子はセーラー服。私立だと男女共にブレザー。 セーラー服自体は好きだったけど、ブレザーの制服に憧れがあったのは否定できない。ドラマで出てくる高校の制服って大抵がブレザーだった。 その彼が来ていたのは学ランだった。金ボタンに刻まれた校章は南陵(なんりょう)のものだ。市内有数の進学校の一つだ。 彼はいつもその時間に乗っているわけではなかった。高校生にして坊主頭のその彼は、恐らく野球部。きっといつもは朝練があるから、もっと早い電車に乗ってるんだと思う。 テスト期間は我が西高とほぼ同じみたいで、その期間だけ私と同じ車両に乗っている。テスト前って憂鬱だけど、彼の顔が見られるなら悪くない。 彼とは何度か目が合ったことがある。何のことは無い。私が彼をじろじろと見ていたからだ。きっと視線を感じたんだと思う。 声なんて、掛けられない。彼と私に、共通点なんて無いもの。あるとしたら、今この電車の同じ車両に乗っているという事実だけ。 目鼻立ちのはっきりした、整ったそのお顔を見ているだけで。心地良い低音が鼓膜を響かせてくれるだけで。それだけで、私は満足していた。
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