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動け!私
定期演奏会の曲とアンサンブルコンテストの曲が決まった。うちの吹奏楽部は進学校の割には力を入れている方で。
つまり、練習が始まると、結構遅い時間まで部活が終わらない。冬の足音が聞こえようが、夕暮れが早くなろうが、曲が完成するまでは早く帰れるだなんてことは滅多に無かった。
「……亜樹?」
薄暗い駅までの長い坂道。前方を歩いていたのは剣道部女子の主将で、2年で同じクラスになってから仲良くなった新城亜樹だった。
「百永!吹奏楽部もこの時間までやってたんだ」
「今年は定演とアンコンが同じ時期になっちゃって。練習する曲が多くて終われないの」
亜樹は少し前まで桐生くんと一緒に帰っていた。見た目の派手な彼がいつも図書室で待っててくれるだなんてラブラブな話は密かに私の憧れだった。
亜樹からは「優輝と別れた」とサラッと告げられただけで。詳しく聞こうにも、その当時の亜樹の憔悴っぷりと剣道への力の入れ込み方が凄すぎて、それ以上何も聞けなかった。
「南陵の彼とは、最近は会えたの?」
固まった。並んで歩く亜樹から恋バナが出てきたことにも、亜樹から永翔くんについて尋ねられたことにも驚いた。
「あ、会えて、ない……」
「何で連絡先聞いておかないかな」
「うぐっ……そんな、恋愛初心者の私にはハードルが」
「ハードルが、とか言ってるから実際会えてないんでしょうが」
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