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「できることはできるときにやっておかないと。後悔しても遅いんだよ」
顔は笑ってるけど、目が悲しそう。亜樹は、私が想像出来ないぐらいの苦しみをきっと味わったのかもしれない。
「今度会ったら絶対LINE交換するんだよ?」
「でも、何か理由が無いと……」
「そんなの、『もっと話してみたいから』でいいじゃん。実際そうでしょ?」
呆れ顔で私を見る亜樹の恋愛偏差値の高さを肌で実感したのは、今日が初めてかもしれない。
「もっと前から、亜樹に相談してれば良かったのかも……」
「あれ?いつでも相談してくれて良かったんだよ?」
相談できる雰囲気じゃなかったでしょ、だなんて少しずつ失恋から立ち直りつつある亜樹には、面と向かって言えなかった。
亜樹とは南区役所の駅のホームで別れた。私が乗る電車とは反対方向に亜紀の最寄りの駅はある。
南区役所から電車に乗ると、大抵は座れる。座って一息つくと、電車内のアナウンスが次の駅に近づいていることを告げた。
永翔くんの高校の最寄り・桜丘駅だ。いつも、桜丘に停車中は身が硬くなる。彼の姿を見つけたくて、自然と目で探す。
いた!今日は隣の車両だ。移動しようかな。亜樹にも背中押してもらったし、今日こそLINEの交換を……!
「──もうっ!永翔ってほんとドSだよね」
「いや普通だろ」
永翔くん目指して電車内の通路を歩いた。彼を驚かせようと、静かに、気づかれないように近づいていた、自分の判断に感謝した。
彼はまだ私に気付いていない。彼の隣にいたその女の子は私と目が合うと、これ見よがしに永翔くんの制服の袖を掴んだ。
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