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あやしい出会い!?
梅雨も明けた六月の終わり。お母さんが運転する車にゆられながら、私は引っ越し先に向かっていた。
「あーあ、友達ができなかったらどうしよう……」
私は窓に映る田舎道を見つめながら、一人うじうじとしていた。
まさか五年生で別の小学校に転校することになるとは思わなかった。新しい小学校はどんなところだろう。考えるだけで体がそわそわし、お腹がキュッと痛くなった。
「陽色ったら……今からそんなこと心配しても仕方がないでしょう?」
車を運転するお母さんが、ため息をつきながら話しかけてくる。
お母さんはいい。だって、今向かっている引っ越し先はお母さんの故郷だからだ。知らない場所なんてないだろうし、知っている人もたくさんいる。でも、私はお母さんの故郷なんて赤ちゃんの時にしか行ったことがない。知っている人もおじいちゃんとおばあちゃんだけ。これで不安にならない訳がない。それでもお母さんは素気なかった。
「大丈夫よ。小学校もどうせたいした人数いないんだから、すぐにみんなと仲良くなれるわ」
そう言って、お母さんは車のハンドルを切った。
右を見れば畑。左を見れば山。そんなところにポツンと建っている集合住宅。あれがこれからお母さんと一緒に住む家だ。
「話には聞いていたけど……本当に何もないところなんだね」
ここは世花村。山間にある小さな村だ。スーパーもなければコンビニもない。あるのはいっぱいの自然だけだ。
辺りをキョロキョロと見渡しているうちに、お母さんが団地の駐車場に車を停めた。
団地の駐車場には白髪頭の男の人が私たちを待つように立っていた。おじいちゃんだ。
「紫、陽色、いらっしゃい。いや、『おかえりなさい』かな」
おじいちゃんがニコニコしながら私たちを出迎える。しかし、お母さんは疲れたように息を吐き、ぼんやりと集合住宅をながめた。
「この村に帰ってくるとは思ってなかったわ」
お母さんのつぶやきに、おじいちゃんは寂しそうな顔をしていた。
「藍一さんのことがあったからねえ。頼んであった仏壇も今日届くみたいだよ」
「そう……色々とありがとう」
おじいちゃんにお礼を言うお母さんだが、お母さんの表情は曇っている。どんよりとする空気だが、今は仕方がないと思った。
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