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橙樹くんと黄菜子ちゃん
家庭訪問から数日後。あの日の気まずい記憶もうすまってきた頃のことだ。
私は昼休みを利用して、初めて学校の図書室に来ていた。「朝読書」に読む本を探すためだ。
「朝読書」というのは、一時間目が始まる前の十分間にみんなで本を読むことだ。前の学校でもやっていたので世花小学校に転校してからもその続きを読んでいたのだが、今日で読み終えてしまった。とはいえ、この村には本屋さんがないので、こうして図書室に足を運んでみたのだ。
全校児童が二十八人しかいないのに、世花小学校の図書室は広かった。真ん中に読書をするための机があり、それを囲むようにぐるっと横長の棚が置かれている。中には「図書委員のオススメ」「あたらしい本」など図書委員がコーナーを作った棚もある。ただ、もうすぐ夏なのになぜか「冬におすすめの本」から更新されていないのが気になる……。
(図書委員さん……きっと忙しいんだな……)
そんなことを考えながら、私は図書室の中を巡った。すると、一番奥の棚のところで、見覚えのある長い髪の女の子を見つけた。
(あ! あの子は!)
彼女は、転校初日に私の家のカギを見つけてくれた女の子だ。彼女とはあの日以来会えていなかった。結局名前も聞けてないし、お礼も言えずじまいだったから、こうして会えたのはラッキーだった。
そう思って一歩踏みこもうとしたところ、いきなり誰かが私の服のそでをチョンッと引っ張った。
「わっ!」
驚きの声をあげながら振り向くと、私の服を引っ張った子がビクッと体をすくませた。引っ張ったのは黄菜子ちゃんだった。
「き、黄菜子ちゃん。どうしたの?」
「本を返しにきたの……陽色ちゃん、ここで会うの初めてだったから気になって……」
もじもじする黄菜子ちゃんの手には先日読んでいた怖い話の本を持っていた。彼女は休み時間のたびに本を読んでいるので、すぐに読み切ってしまうとのことだった。
「陽色ちゃんは朝読書の本を探してるの……?」
「うん。面白い本がないかなって思って」
「じゃあ、それなら……」
そんな話をしているところで、いきなり図書室の扉が開かれた。入ってきたのは、橙樹くんだ。しかもかったるそうにあくびをしている。
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