橙樹くんと黄菜子ちゃん

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「これは……?」  飛びこんできた文字に私は思わず顔をしかめた。本だと思っていたこれは、おそらく本ではなかった。見たこともないむずかしい漢字が書かれているうえ、昔のひらがなも使われている。正直、何が書かれているのかさっぱりわからない。これはもしかして、お坊さんが葬式に読む教本なのだろうか。それがどうしてこんなところに? 「あはは。なんか、変な本だったね」  半笑いをしながら本棚に本を戻そうとすると、黄菜子ちゃんがその本をガシッとつかんできた。 「その本……借りる」 「え? でも、この本を読むの難しいんじゃない?」 「いいの。借りる」  さっきまでもじもじしていた黄菜子ちゃんとは思えない強気な口調だった。驚きながらも本から手を離すと、黄菜子ちゃんは無言でその本を自分の腕の中に収めた。 「おーい、お前ら、本が決まったら持って来いよ」  カウンターから橙樹くんの声がする。図書室の時計を見てみると、もうすぐ昼休みが終わろうとしていた。  黄菜子ちゃんが借りた本が少し引っかかったが、私は黄菜子ちゃんが選んだ本を持って、橙樹くんが待つカウンターへと向かった。  ◆ ◆ ◆    流石本好きな黄菜子ちゃん。彼女が勧めてくれた本はとにかく面白く、夢中になりすぎて休み時間のたびに読んだし、なんなら家に帰ってからも時間を忘れて読んでいた。  本を読むようになってから三日経ったある昼休みのこと。今日も教室で本を読んでいたら、誰かに肩をたたかれた。  振り向くと、頬にプニッと人差し指が刺さった。いたずらの犯人は灰司くんだ。 「もー、ひどいよ灰司くん」 「あはは、ごめん。最近、陽色さんがかまってくれないから、つい」  平謝りする灰司くんだが、表情はほころんでいるから反省の色は見られない。ただ、私にかまってもらいたかったのは本当らしい。 「これからみんなでドッヂボールをやるんだけど、陽色さんもどう?」  どうやらこの誘いのためにわざわざ私を呼んでくれたようだ。確かにここ数日、ずっと本を読みっぱなしだったし、たまには体を動かすのもいいかもしれない。 「うん、行く!」  そう言うと、灰司くんは「そうこなくては」と笑った。
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