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「どうしたんだい? そんなに本を出して……」
あれだけ「本がきらい」と言っていた橙樹くんが、こんなにもぶ厚い本を読んでいるのは意外だった。しかも机の上に置かれている本も、今彼が読んでいる本も、病気の本や「からだの仕組み」と書かれた図鑑など体に関わるものばかりだ。
「何か調べものかい?」
「うるさい! お前たちには関係ないだろ!」
橙樹くんがするどい目で灰司くんをにらみつける。張りあげる声からも彼のイラ立ちは肌がビリビリするくらい感じていた。それなのにどうしてだろう。彼がとてもあせっているようにも見えるのだ。
「もしかして、黄菜子ちゃんのことを調べてる?」
尋ねてみると、橙樹くんの眉がピクリと動いた。図星だったみたいだ。
「や、やっぱり、黄菜子ちゃんの様子おかしかったよね? いつもの黄菜子ちゃんじゃなかったよね?」
「陽色に何がわかるんだよ。転校してきたばかりのくせに」
「わかるよ……だって、黄菜子ちゃんも友達だもん」
はっきりそう言うと、橙樹くんはキュッと唇の下を噛みしめた。そんな彼のことを、灰司くんはだまって見つめていた。
しばらくの沈黙のあと、橙樹くんがおそるおそる口を開いた。
「……灰司は、最近の黄菜子のことをどう思う?」
橙樹くんに質問された灰司くんは答えを迷うように考えこんだ。しかし、灰司くんの答えが出る前に橙樹くんはぽつり、ぽつりと語り出した。
「俺……黄菜子とずっと一緒にいたから、あいつが本当はみんなと遊びたいことを知っていた。だから、ああやってみんなと混ざっている黄菜子を見て、最初は『あいつも変わろうとしてるんだな』って思った。でもさ、今の黄菜子は、全然黄菜子じゃねえじゃん」
語りだす橙樹くんの顔はどんどん赤くなって、目にも涙がたまっていた。それでも彼は真顔のまま私たちに話し続けた。
「気になったから黄菜子のおばさんに『あいつの様子がおかしくないか?』って聞いてみた。そしたらおばさん、『今の黄菜子のほうが明るくて良い』って言うんだ」
橙樹くんの手は爪が手のひらに食いこむくらい強く握られていて、プルプルと震えていた。その姿は怒っているようにも、悲しんでいるようにも見えた。
「確かに黄菜子は内気で、人見知りが激しいやつだよ。休み時間もずっと本を読んでるような暗いやつだよ。でも、それが黄菜子だろ。それなのに、『今の明るい黄菜子のほうが良い』って……それは言っちゃだめだろ」
やがて、橙樹くんの目からぽろぽろと大粒の涙が流れ始めた。橙樹くんはその涙をかくすようにうつむき、両手で顔をおおった。
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