橙樹くんと黄菜子ちゃん

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「俺……怖いんだよ……このまま黄菜子が消えてしまうんじゃないかって……でも、俺、頭悪いから……本を読んでも全然理解できなくて……」  涙で震える橙樹くんの声がどんどん小さくなっていく。  泣いている彼を見ていると胸がキュッとなって、こっちまで悲しい気分になった。橙樹くんは必死だったのだ。黄菜子ちゃんの身に何があったのか知りたくて、それで読まない本を読みあさって。多分一人で苦しかったことだろう。  そんな哀れな橙樹くんを見つめながら、灰司くんは静かに答えを告げた。 「確かに別人のように……というか、最早別人だと思う。でも、人間がいきなり別人になるなんてことはあり得ないし、そもそもきっかけがわからない」  灰司くんのことはごもっともで、私も橙樹くんも押しだまってしまった。わかっていることは、黄菜子ちゃんが変わったのは二、三日前からということ。  その話を聞いて、私はあることを思い出した。 「二、三日前といえば……黄菜子ちゃん本を借りてたよね? 茶色の表紙のおかしな本」  ポロッと言うと、橙樹くんと灰司くんが同時にこちらを見てきた。 「なんだよそれ……俺、そんな本知らないぞ」  橙樹くんの顔が青くなる。あの時、本の貸し出し処理は橙樹くんがおこなっていた。それなら、あの茶色の本を橙樹くんも見ていないとおかしい。 (なら、黄菜子ちゃんはだまってあの本を持っていったということ?)   新たな証言にドキドキしていると、灰司くんが思い出したようにこう言った。 「三大怪談……あれに本の話ってなかった?」 「確か、『呪いの本』だっけ? その本を読んでしまうと魂が吸われるって……」 「そ、そんな……呪いなんて本当にあるはずないだろ?」  頬を引きつらせる橙樹くんだったが、灰司くんは大真面目だった。灰司くんにはわかるのだろう。黄菜子ちゃんが、とんでもないことに巻きこまれているということに。でないと、いつもおだやかな彼の顔がこんなにも切羽詰まったようなあせり顔になる訳がない。 「早く黄菜子さんを探さないと!」 「え! ちょ……灰司くん!?」 「どこに行くんだよ!」  いきなり図書室を飛び出た灰司くんを私たちは慌てて追った。何度も「待って」と言っても、灰司くんは足をとめるどころか振り返りもしなかった。そんな緊迫した灰司くんを見るのは橙樹くんも初めてだったみたいで、彼の表情もこわばっていた。
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