86人が本棚に入れています
本棚に追加
「いい? 山の中と変なところには行かないこと。困ったらすぐに電話すること。わかった?」
お母さんは念を押すように私に言う。といっても、私の持っているキッズ携帯にはGPSがついているから、どこにいようとお母さんには筒抜けだ。だから、実際のところたいして心配はしていないのだろう。私のお母さんはそんな人だ。
「それじゃ、いってきます」
お母さんとおじいちゃんに手を振り、さっそく村の中を探索する。
しかし、お母さんの言う通り探検するような場所はなかった。国道に戻っても、畑と道路が続くだけで建物一つ見当たらない。五分くらい歩いたところでようやく住宅がぽつぽつと並んでいるのが見えたが、人の声も聞こえない。遊ぶところも近くになさそうだ。
もう少しだけ進んでみようと住宅地を抜けると、山のほうへ続く砂利道に出た。奥には石段と鳥居がある。この先は神社だろうか。
(ちょ、ちょっとだけ……行ってみようかな)
高鳴る動機を抑えながら鳥居のほうへ歩いてみる。すると、石段の上に何かいるのが見えた。それは四足歩行の動物で、ここからでもぴょこっと立った耳とモフモフした尻尾がわかる。犬みたいだけれど、犬にしては毛が長いし、何より毛の色が青い。一瞬、「ハスキーかな?」と思ったが、どうやらちがうみたいだ。
砂利道の匂いを嗅いでいた動物だったが、私に気づいたようでムクッと顔をあげた。
動物がじっと私のことを見つめる。しかし、すぐに長い尻尾をくるんと巻き、飛ぶように鳥居の奥へと去っていった。
「あ! 待って!」
慌ててその子の後を追ってみる。
石段を駆けあがり、鳥居を抜けると、そこにあったのは小さな祠だった。祠の前には点々と石像が置かれている。しかも同じ動物は一つもない。
こんな奇妙でへんぴなところなんて人はいないと思っていたら、奥に男の子の姿を見つけた。しかも先ほど会った犬っぽい動物も隣にいる。
「あ、あの……」
声をかけてみると、男の子は「ん?」とこちらを振り向いた。
最初のコメントを投稿しよう!