橙樹くんと黄菜子ちゃん

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 とまどっていると、ためらう私たちを差し置いて橙樹くんが一歩前へと踏みこんだ。 「黄菜子! そこにいるんだろ、黄菜子!!」  橙樹くんが必死な様子で黄菜子ちゃんに声をかける。その行動を見て私は思わずハッとした。今が「魂が吸われている状態」なら、もしかすると、黄菜子ちゃんの体にまだ彼女の魂が残っているかもしれないからだ。ならば、私ができることは橙樹くんと同じのはず。 「黄菜子ちゃん……帰ってきて。大丈夫……大丈夫だから……」  なだめるように声調を落とし、一歩だけ彼女に近づく。すると、黄菜子ちゃんの体がピクリと動いた。 「いやだ……だって……黄菜子……黄菜子がきらい……」   今にも消え入りそうな声だったが、その声はまちがいなく黄菜子ちゃんのものだった。  慌てて灰司くんを見ると、灰司くんは真顔のまま悟ったように首を縦に振った。「続けて」口には出してなくても、そう言っているみたいだった。  緊張しながらも、黄菜子ちゃんに声かけを続ける。 「どうして自分のことがきらいなの?」 「黄菜子……暗い子って言われる……内気で……すぐにおどおどするって言われる……だから、お父さんも、お母さんも『明るい今の黄菜子のほうが良い』って言うの……だから……このままのほうがいいの……」  ぽつりぽつりとつぶやく黄菜子ちゃんの言葉に私は息をのんだ。  体が別の魂に取られても、黄菜子ちゃんは知っていたのだ。体が取られたあと、自分がどう暮らしていたのか。そして、自分がなんて言われていたかを。  自然と言葉が詰まった。ひょっとすると、変わりたかったのは黄菜子ちゃん自身だったのかもしれない。元気で、みんなと混ざってあそべるような、そんな明るい子に。そんな彼女の心を付け入れて、呪いの本に引きこまれてしまった。だからこんなことになってしまったのだ。 「──そんなこと、ないよ」  震えた声で言うと、黄菜子ちゃんの眉がぴくりと動いた。同時に、あれだけ警戒していた黄菜子ちゃんの眼差しが少しやわらいだ気がした。  そのまま話を続ける。
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