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◆ ◆ ◆
翌日。私は図書室に来ていた。
図書室には誰もいない。図書委員である橙樹くんもまだ来ていないみたいだ。
結局黄菜子ちゃんがおすすめしてくれた本は面白くて、すぐに読み終わってしまった。「朝読書」はまだ続くから、こうして私は次に読む本を探しに来たのだった。
黄菜子ちゃんはというと、「体がだるい」という理由で午前中は欠席した。灰司くんいわく、いろんな魂が体の中に入ってしまっていたから、疲れが抜けていないのだろうとのことだ。でも、少し休めば治るとも言っていたから安心だ。
図書室に並ぶ本を見るたびに、昨日のことが頭によぎった。
呪いの本なんてただの怪談話だと思っていたのに、本当にあんなおそろしい物が存在するとは。ひょっとすると、これまでも誰も気づかないうちに魂がうばわれた人がいたのかもしれない。
そんな考えを巡らせている時、不意に誰かから肩をたたかれた。
いきなりのことだからびっくりして肩をすくみあげると、背後から「わっ」と男の子の驚いた声がした。振り返ると、目を丸くした灰司くんがそこに立っていた。
「ご、ご、ごめん。陽色さんがそんなに驚くとは思ってなくて……」
「は、灰司くん。どうしたの?」
「廊下で陽色さんを見かけたから、ついね。きみにも紹介したい子がいるし」
「紹介したい子?」
ぽかんとしていると、灰司くんの肩からするすると細長い黄土色の生き物がすべるように這い出てきた。
「ひゃぁ!?」
逃げるように灰司くんから離れると、驚く私を見て灰司くんはケラケラと笑った。
「いきなりでごめんね。この子はカマ太郎。『カマイタチ』なんだ」
灰司くんは笑いながらその生き物の腰元を両手で掴み、私に見せてきた。
灰司くんに捕まって出てきたのは、黄土色の毛並みをしたイタチだった。それもただのイタチじゃない。両腕に鎌のような大きなツメを生やした不思議なイタチだ。そんなイタチが胴をぷらーんと伸ばして大人しく灰司くんに抱えられているのだ。
「カマ太郎……この子もワン太郎と一緒?」
「そう、式神なんだ」
灰司くんがそう言うと、カマ太郎は灰司くんの顔をペロッと舐めた。灰司くんに甘えているらしい。灰司くんに「よしよし」と頭を撫でられると、満足そうに目を細めた。
「もしかして、昨日呪いの本を壊してくれたのはこの子?」
「うん。カマ太郎は小さいけどすばしっこいからね。ワン太郎より速いと思って、出てきてもらったんだ」
「そっかー。ありがとね、カマ太郎」
私も頭を撫でようとしたが、カマ太郎に「シャー」と歯をむき出しにして威嚇された。この子はワン太郎のようにすぐに懐いてくれないみたいだ。これには灰司くんも「こらこら」と苦笑いを浮かべた。
黄菜子ちゃんを助けた正体はわかったとしても、私の頭の中はまだ呪いの本のことが離れなかった。少し表情が曇ってしまったのだろうか。灰司くんが不思議そうに尋ねてきた。
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