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「どうかした?」
「あ、いや……黄菜子ちゃんがあんな目に遭ったの、私のせいかもしれないって思って」
不思議がる灰司くんに、私はあの茶色の本を見つけた日のことを話した。あの日は私が茶色の本を見つけて、黄菜子ちゃんがその本に興味を持ってそのまま借りていったのだ。明らかにおかしな本だったのに、私は彼女をとめなかった。あそこで何か手を打っていれば、ここまで大事になっていなかったのに。
しかし、灰司くんはそんな私の発言を否定した。
「きみのせいじゃないよ。むしろ、きみがいなかったら、黄菜子さんは救えなかった」
ハッと息をのむと、灰司くんがおだやかな顔でほほえんだ。
「あの時、きみが黄菜子さんの異変に気づいたから。あの時、きみが橙樹くんの言葉を信じてくれたから。あの時、きみが黄菜子さんに声をかけてくれたから。きみの行動一つ一つが黄菜子さんを救ったんだ。僕一人では、どうしようもなかった。だから、そんな顔しないで」
「灰司くん……」
灰司くんの言葉に視界がうるうると潤んだ。そんな私の顔を見て、灰司くんはまたにっこりとほほえんだ。
そのタイミングで、図書室の扉がガチャッと音を立てて開かれた。入ってきたのは、橙樹くんと黄菜子ちゃんだった。
「あー。灰司のやつ、陽色を泣かしてるー」
「ち、ち、ちがうの! これは私が勝手に!」
慌てて否定すると、橙樹くんは疑るように顔をしかめた。口では「ふーん」と言っている彼だが、どう見ても信じていないだろう。
「陽色ちゃん……大丈夫?」
見かねた黄菜子ちゃんが心配そうに顔を近づけてくる。午前中休んでいた彼女だが、顔色も良さそうだ。
「大丈夫だよ。黄菜子ちゃんはもう平気?」
「うん……ありがとう」
黄菜子ちゃんが口角をあげてニコッと笑う。そういえば、こうして黄菜子ちゃんの笑顔を見たのは初めてかもしれない。なんだか嬉しくなって、私も釣られるように笑った。
そんな私たちのやり取りの横で、橙樹くんと灰司くんも会話をしていた。
「なんだ、あいつら……顔を見合わせてニコニコして……」
「いいじゃないか、ほほえましくて。橙樹くんだって、黄菜子さんが笑っていたほうが嬉しいだろう?」
「そりゃそうだけど……って、はっ!?」
いきなり橙樹くんが大きな声を出すから彼のほうを見てみると、顔がゆでだこのように真っ赤になっていた。そんな橙樹くんのリアクションに灰司くんは「してやったり」といたずらっぽく目を細めた。
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