橙樹くんと黄菜子ちゃん

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「ちがっ! 何言ってるんだよ、灰司!」 「だ、橙樹くん……図書室では静かにしなきゃいけないんだよ?」 「うるせえ! 知ってるわ! でも、今のはどう見てもこいつが悪いだろ!」 「悪いって……灰司くんはなんて言ったの?」 「聞こえてなかったのかよ!」 「おや、ご要望ならもう一度言うけど?」 「言わなくていいわ!」  ギャーギャーさわぐ橙樹くんを見て、おどおどする黄菜子ちゃん。そんな彼らの様子を目の当たりにしてニコニコする灰司くん。そのやり取りがなんだかおかしくて、私も自然に頬がほころんだ。 「フフッ」  ふと、後ろから誰かが笑った声が聞こえた。振り向くと、髪が長くて目の下にほくろがついた女の子が、本棚に背もたれながら楽しそうにこちらをながめていた。私のカギを見つけてくれたあの子だ。いったいいつ図書室に入ってきたのだろう。私たちがおしゃべりしている間に入ってきたのだろうか。  女の子は私と目が合うと、小さく手招きしながら図書室の奥へと行ってしまった。私を呼んでいるようなので、ひとまず彼女のあとを追った。  図書室の奥へと行くと、女の子は私にスッと一冊の本を差し出した。彼女が渡してくれたのは、黄緑色の服を着た金髪の男の子が不思議な惑星にぽつんと立っている表紙の本だった。 「これを私に?」  そう聞くと女の子はニコッと笑ってうなずいた。相変わらずしゃべってはくれないが、彼女が言おうとしていることはそのリアクションで十分伝わった。 「あの、ありがと──」 「あれ……陽色ちゃん?」  女の子にお礼を言う途中で、黄菜子ちゃんが私の声をさえぎった。振り向くと、黄菜子ちゃんだけでなく、灰司くんや橙樹くんもこちらに来ていた。
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