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「いきなりいなくなったから、どうしたのかと思って」
「あ、ごめんね。この子に呼ばれて……」
「この子って、どの子だよ」
橙樹くんに顔をしかめられ、「え?」と慌てて女の子のほうを見る。すると、さっきまでいたはずの女の子がどこにもいなくなっていた。
「あ、あれ?」
確かにここにいたはずなのに……けれども、いくら周りを見回しても、女の子の姿はどこにもない。
「おかしいなあ……さっきまでいたのに」
首をかしげていると、突然黄菜子ちゃんが「あ、それ……」と私が持っていた本を指差した。
「その本、黄菜子も読んだ……面白いよ」
「あ、本当? じゃ、借りてみようかな」
と、私は本の一番後ろのページについてある貸出票を取り出した。そこには確かに黄菜子ちゃんの名前が書かれていた。だが、私の目に飛びこんできたのは、彼女の前に借りた人の名前だった。
「……坪井翠?」
もしかして、それがあの子の名前なのだろうか。でも、この名前、なんかちょっと気になる。
「ねえ、多分三・四年生だと思うんだけど、髪の長い女の子の名前ってなんて言うの?」
女の子のことを尋ねてみると、橙樹くんと黄菜子ちゃんは二人そろって「え?」とすっとんきょうな声をあげた。
「そんな髪の長い子なんて、下の学年にいないぞ?」
「うん……多分、黄菜子が一番髪が長いと思う……」
「……え?」
予想もしていなかった答えに私は言葉を失った。
三・四年生のクラスではない。でも、私のクラスでもない。ならば、あの子はいったい誰なのだ。
(もしかしてあの子が……放課後のミドリさん? ということは、「坪井翠」って……)
胸の中がざわざわする。その途端、急になんだか不安になる。その不安を押さえこむように、私は自分の手をもう片方の手でギュッと握った。
灰司くんは、そんな私をとても厳粛な顔でじっと見つめていた。
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