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◆ ◆ ◆
次の日、月曜日。今日は転入先である世花小学校に初めて登校する日だ。
「う~……緊張するなぁ……」
担任の先生と廊下を歩いている時も、私は不安で仕方がなかった。
「そんなに緊張しなくても大丈夫よ。この学校の子たち、みんないい子だから」
緊張する私をなだめるように担任の鈴木あんず先生が声をかけてくれる。ショートヘアの元気そうな先生だ。年も三十歳とお母さんより五歳も若い。でも、いくらあんず先生に優しい言葉をかけられても、私の不安と緊張はしばらく取れなさそうだ。なんせ、世花小学校が前にいた学校とちがいすぎる。
前にいたところは校舎だけでも三つ建っていたし、全校児童も千人を超えるような大きな学校だった。しかし、この世花小学校は木造の平屋で、他の建物は渡り廊下で繋がっている体育館しかない。しかも床も歩くたびにキシキシと鳴るし、壁にすき間があるのか、六月なのにどこからかすずしい風が入ってくる。こんなに古くてボロボロな校舎だと、幽霊が出てきそうだ。でも、それも今年まで。来年から新しい校舎になると聞いて、ちょっと安心した。
「それにしても──きみが陽色ちゃんの知り合いだなんて思わなかったなあ」
あんず先生はそう言って私の隣を歩く彼──灰司くんに話かけた。
そう、今、私の隣にはあの灰司くんがいるのだ。
『一人じゃ不安だろうから、僕も迎えに来ました』
灰司くんがそう言ってあんず先生と一緒に校長室に入ってきた時は本当に驚いた。灰司くんがあんず先生に私と知り合いだということを話してくれたらしい。まあ、昨日出会ったばかりで「知り合い」と言えないだろうが、それでも実際に灰司くんがいてくれることで不安がやわらぐのも確かだった。
「困っている子を助けるのも児童会長の役目ですから」
と、目を細めた灰司くんが言う。だが、その発言に私はびっくりして、つい大きな声を出してしまった。
「灰司くんって児童会長なの!?」
「そうだよ。言わなかったっけ?」
私が驚いても、灰司くんはずっとニコニコ顔だった。
見た目も格好よくて、児童会長とは、灰司くんはなんてすごい人なのだろう。そんなことを思いながらポーッと灰司くんを見ていると、灰司くんは照れくさそうに頭をかいた。
「まあ、六年生は僕しかいないから児童会長をやっているんだけどね」
「ろ、六年生が一人って……えぇぇぇ!? なら、五年生は?」
「きみを入れて三人。この学校は複式学級だから、五・六年生のクラスは全部で四人だよ」
「ふくしきがっきゅう?」
初めて聞く単語に困惑していると、話を聞いていたあんず先生が説明をしてくれた。
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