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『ターゲットはこの春に自殺を図ったの。宇宙センターの研究棟の屋上から飛び降りたけど死ねなかった。パートナーの後を追おうとしたんでしょうね』
カヲルコの声が重い。
『脚の骨折が完治し、リハビリで歩けるようになった途端に病室から姿をくらましたのが一週間前のこと。家族は友人関係を中心に行方を捜していたようだけど、旅券の記録からターゲットがニッポンへ出国した可能性が高いと分かった。そうなると彼らには手に負えない。言葉も通じない外国で人探しをするなんてね』
「だから俺たちニッポンの超~優秀な探偵に捜索依頼を持ち込むという、素晴らしい選択をしたわけだ」
俺はわざと明るく言った。
その判断は、実際正しかったと言って良い。警察内の友人を通じて各地の空港に照会をかけたところ、ターゲットらしき人物の足取りはすぐに分かった。
ターゲットはチトセからハネダに乗り継ぎ、プロキシマ・ケンタウリb行きの星間航行便に搭乗していた。家族が故郷の市内でビラを配っていた頃、とっくに地球を離れていたのだ。
ターゲット自身にとっても土地鑑がなく、知人もいないニッポンに渡航したのは、ピエタリからの航路が存在しない星に向かうため――それは病室に残されたターゲットのモバイル端末のログを転送してもらい、解析していたカヲルコの読み通りでもあった。
ターゲットは大胆にも、ピエタリでもハネダでも「カラコリチカ・クレストの渡航証」を使って出国していた。
「こっちの空港で話を聞いた入国審査官が、ターゲットのことを覚えていたよ。おしゃべり好きなおばさんでね、渡航証を返すときのやり取りに違和感があって、性別を偽ってるんじゃないかと思ったらしい」
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