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『それで、これからどうするの? そっちに行きさえすれば心当たりはあるって言ってたけど』
「裏通りの脱法酒場を片っ端から回るのさ、昔から、人を捜す時には……特に『誰かを捜してる誰か』を捜す時にはそれが一番早い」
リゾート開発公団がこの星の再開発に乗り出した時、富裕層の呼び込みを図るべく各国が示し合わせた、あの「観光特区法」。
風紀浄化を合言葉に、鉱山の街には付き物である酒場、賭場、売春宿がすべて違法となって裏路地に追いやられた。
子供が散らかしたオモチャを全部ベッドの下に押し込んで「綺麗になった」と胸張るような天下の愚法。店を潰したって客が消えるわけじゃない。合法企業の締め出しはマフィアの介入を招き、治安はかえって悪化した。禁酒法がアル・カポネの裏社会の帝王にのし上げた一九二〇年代から、人類は何も学んでいない。
そんなわけでこの星には、裏表の人間と情報が行き交うスピークイージーが無数に点在している。
『……それ本気? 何日かかると思ってんのよ』
「たいしたことないさ。この星の居住エリアの面積は約六〇〇平方キロメートル、酒場の数はたったの二〇〇〇軒ちょっとだ」
『言っとくけど、勝手に飲んだ酒代は経費にはなんないわよ』
カヲルコは呆れたように言う。
道端に、露店のパラソルが出ているのが目に入った。
このあたりの縄張りの見張りも兼ねているのだろう、夜にはどこかの賭場で用心棒でもしていそうなガラの悪い男が、ストローハットを斜めにかぶってゴザを広げ、指輪やブレスレットと言った紛い物のアクセサリーを並べている。観光地らしい白い麻シャツを揃いで着たカップルが冷やかしていた。
ホバーバイクを路肩に停めて、ストローハットの男に声をかける。
「お兄さん、その手鏡いくらだ?」
男はそれを手に取って、こちらをジロリと一瞥した。柄の部分にこれ見よがしに有名ブランドのロゴが入った、どう見ても安いパチモノだ。
「一二〇〇シルヴァ」
「八〇〇シルヴァにしろ。聞いてたなカヲルコ、さっそく経費の追加だ」
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