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そこでいったん、全員でリビングへと戻った。
志麻さんも一緒だった。怯えた正嗣くんが、手を握ったまま離さなかったからだ。
全員でソファに座り、向かい合う。
爽希さんと雲雀さんが同じ側、対面に正嗣くんと志麻さん。
あたしは迷ったけど、この場合完全に部外者だし、かと言ってこのタイミングでこの場を去るとまるで逃げてるみたいなので、部屋の隅の簡易キッチンで、お茶でも淹れることにした。
「わざわざY県から来たのか。電車に乗って?」
爽希さんの質問が聞こえて、あたしはびっくりした。
Y県といえば、東京からは電車でも三~四時間はかかるところだ。小学生が一人で移動するには、なかなかの距離だろう。
「はい」
「よく電車賃があったな」
「今年のお正月に、遠縁のおじさんが、お母さんに内緒でお年玉をくれたんです。それを使いました」
「もしかして、おこづかいはもらってないの?」
志麻さんがふいに訊いた。
なんでそんなことに気づいたのかはわからないけど、正嗣くんは眉を『ハ』の字に下げながら頷いた。
「僕にはまだ早いと言われてます。兄さんは同じくらいの歳だったとき、いっぱいもらっていたらしいですけど」
「あぁ……」
志麻さんは同情のため息をついた。
これには、あたしも同意だ。
(おこづかいが少ない、ということならあたりまえにある話だと思うけど、そもそも、もらってない?)
今どき、友達とちょっと遊ぶのだって、ちょっとしたお金はかかるだろうに。
(しかもお兄さんと比べて、そんなに扱いが違うんだ)
なんだか、正嗣くんの背景、なかなか闇が深そうな気がする。
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