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「しかしわざわざ螺旋階段を見に来て、どうするつもりだったんだ?」
心なし、爽希さんの口調も柔らかくなってきたようだ。
この隙に、と、あたしは急いでお茶のカップをそれぞれの前に置いた。
「わかりません……」
正嗣くんは膝小僧をくっつけたり離したりしながら、消え入るような声で答える。さっきまでの元気が嘘のようで、なんだかかわいそうだ。
「爽希さんや雲雀さんも、とっても意地悪で、悪魔のような人たちだって教えられてました。でも、ひどいことばっかりしてた兄さんのこと、母さんは『天使』って言ってたし、僕、なにがなんだかわからなくなっちゃって……」
「それで、確かめに来たってわけか」
爽希さんは今度は、まるで感心しているような口調だ。
(まあたしかに)
この年齢で、親の言うことの矛盾にちゃんと気づいて、そのうえで自分の目で確かめようとする行動力は、褒めてもいい素質かもしれない。
雲雀さんが『見どころあるかも』と言ったのもわかる。
でもまあ、正嗣くんからしたら、自分が評価されているなんて思いもしないのだろう。ひたすら身体を縮こまらせて、目には涙を溜めて俯いている。
「しかしとにかく、芙蓉さんには連絡を入れるからな。さすがに心配しているだろう」
でも、爽希さんの言葉に、真っ赤になっている顔を上げた。
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