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「だ、だめです。ぼ、僕、すぐこのまま帰ります。だから、黙っててください。僕、僕……」
そこまで言って、唐突に声が途切れた。
そして次の瞬間、大きな声を上げて泣き始めた。
とうとう、耐えられなくなってしまったようだった。
「母さんは僕なんて、いら、いら、いらないんです。こんなのバレたら、す、す、捨てられちゃう……!」
パニックになりかけているのか、ひきつけを起こしたみたいになっている。
志麻さんが、慌ててその身体を力いっぱい抱きしめた。
「大丈夫。大丈夫よ。お母さんはきっと、お兄さんがいなくなったことがショック過ぎて、そこから心が離れなくなっちゃってるの。あなたが大丈夫だって安心してしまってるから、そんな態度になってるのよ。もしもあなたを失いそうになれば、目が覚めるはず」
そう優しくいいながら、正嗣くんの背をゆっくりとさすっている。
鳴き声が、少しだけ小さくなった。
(志麻さん……。ちょっと、意外……)
主な仕事場であるキッチンが離れになっているせいか、経験からくる知恵からか。いつもは雇い主の牧園家の家族の問題からは、ちょっと距離を置いているように見える志麻さんが、こんなに踏み込んだことを言うとは思わなかった。
爽希さんや雲雀さんも、いつになく、ちょっと戸惑っているらしい。
気まずい空気が流れ、泣いている正嗣くん以外は、みんな黙り込んだ。
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