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「と、とにかく」
口火を切ったのは、爽希さんだった。
「芙蓉さんに連絡して、迎えに来てもらうことは譲れない。このままひとりで帰して、なにかあったら大変だ」
「で、でも、僕……」
「君の気持もわかる。でもこれは、下手したら事件にだってなりかねない。特に芙蓉さんのような人柄では、僕たちを誘拐犯だと訴えることだってやりかねない。ここは道理を通させてもらう」
断固とした口調に、正嗣くんは黙った。
(たしかに、未成年の子を勝手に家に引き入れた、って難癖つけられてもおかしくない状況か……)
うかつだった。
そんなことにまで気が回らなかったことを、今さら反省してしまう。
河川敷ではあたしが唯一の大人だったのに、その手のことに思い至らなかったのが情けない。
いくら、雇い主が揉めてる相手の子供だとは知らなかったとはいえ。
爽希さんは手にしていたスマホでまずさっき連絡していたらしい相手に断りを入れた。
そのあと、大きく息を吸い、ソファから立ち上がった。
窓のそばに立ち、あたしたちに背を向けながら、芙蓉さんへと電話をかける。
肩がひどくこわばっているのが、ひどい緊張状態にあることを示していた。
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