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考えてみれば、芙蓉さんにとってここは敵陣なんだろう。
だから、息子がいじめられてかわいそうな目にあっているところを颯爽と救出しに来たはずなのに、そこで自分から庇われるなんて、予想もしていなかったに違いない。だからこその反応なのかもしれない。
「正嗣、こっちに来なさい」
わずかに震える声で呼びかけてくる。
動揺からくるせいなのか、怒りを我慢しているせいなのか判断がつきにくい。
あたしは、正嗣くんの手を握ったまま、一緒に立ち上がった。
近づくのにも一緒にしたけど、ただ、さすがにちょっと遠慮して、半歩ほど後ろにいた。
するとそこに隙があると判断したのか、芙蓉さんが手を思いきり上げた。
(叩かれる!)
あたしはとっさに正嗣くんの身体を引っ張り、背後に隠した。
でも、手は下りてこなかった。
志麻さんが、その腕に縋りついていたからだ。
「離しなさい!」
「いけません!」
二人はもみ合いになり、見かねた爽希さんが間に入る。
引き離されたあとも睨みつける芙蓉さんに、志麻さんが話しかけた。
「殴ったりしたら、正嗣くんは自分が愛されてないと感じますよ。心配だから、飛んできたんじゃないんですか」
あたしはその言葉にびっくりした。
正嗣くんの話だと、正直、虐待を疑うような母親だ。志麻さんだって、同じ話を聞いてたはずだ。
なのに、まるで、愛情のある母親に話しかけているみたいなことをしてる。
芙蓉さんも驚いたようで、目を見開いて志麻さんをじっと見た。
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