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志麻さんは、言葉を続けた。
「正嗣くんだって、思うところがあって、こんな行動に出たはずです。まず先に話を聞いてあげてください」
「うるさいわね、なにこの女」
しかし、芙蓉さんは取り合うつもりもないらしい。吐き捨てるように言うと、さらに足を踏み出した。
あたしは正嗣くんを背後にくっつけるようにしたまま、後退する。
「失ってからは遅いんです」
志麻さんが取りすがる。
「愛されていないと思った子どもは、思い切った行動に出てしまうことがあります。それで私は自分の子を失いました。あなただって、そんなことは望んでいないはずです。どうか、正嗣くんにもっと優しく……」
ここでさすがに、芙蓉さんも動きを止めた。
「失った……? 自分の子を……? どういうこと」
ここで志麻さんの表情が変わった。
さっきまではきりっとした雰囲気だったのが、突然、かたい殻が砕け散ってしまったような痛々しいものになった。
たぶん、勢いで言ってしまったことなんだろう。
でも、それは一瞬のことで、また断固とした態度に戻る。
それは意志を強めた、というよりむしろ、やけくそっぽい雰囲気。
『こうなったら全部言ってしまおう』
そんな心の声が聞こえるようだった。
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