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部屋のなかは、沈黙に包まれていた。
そしてあたしはと言えば、全身の毛穴という毛穴から、嫌な汗が噴き出し始めているのを、どこか遠い意識で感じていた。
もしかしたら、一瞬、幽体離脱していたかもしれない。
「な、なんで……、なんで……」
身体もこわばってしまって、まともに動かない。
その隙をついて、芙蓉さんは正嗣くんの腕をつかみ、自分の横へと引っ張った。
芙蓉さんはあたしを見、それから爽希さん、雲雀さん、志麻さんの順に視線を送り、嘲笑った。
「なによ、みんな騙されてた、ってわけ。あたしに説教できるような、御大層な身分じゃないってことが、これでわかったでしょ。じゃあ、これで帰らせてもらうわね。二度とうちの子をこの家に引き入れないで。また殺されたら、たまんないわ」
捨て台詞を吐くと、大股で勝手に家を出て行った。
正嗣くんはかわいそうに、泣きじゃくりながら引きずられるように連れていかれた。
でも、あたしはもう、正嗣くんを庇うどころじゃなかった。
部屋じゅうの人間が、厳しい表情で、あたしを凝視している。
たった今まで、仲間として柔らかかった視線は、今では氷でできた棘のように、冷たく痛いものに変わってしまった。
「沖津さん」
爽希さんが硬い声音で呼んだ。
「彼女の言ったことは、本当ですか」
こうなったらあたしはもう、腹をくくるしかなかった。
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