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「そうやって唆されたのは、本当です。恩のある人が、週刊誌の記者で」
あたしは正直に言うことにした。
言い訳したところでごまかせるようなことじゃないし、なにより、よくしてくれたこの人たちにこれ以上嘘をつきたくなかった。
「でも、なにもまだ書いてません。報告もしてません。……正直、情報を流すことに、ためらいがあったのも本当です」
そんなことを言っても、信じてもらえるかはわからなかった。
(というか、たぶん、無理だよね)
それでも、言わずにはいられなかった。
「一時間、さしあげます」
爽希さんがぼそりと言う。
その声音は、ここ最近聞いていたものとは違う、冷たいもの。
そう、初めて会ったときのような、冷たい金属を思わせる、声。
「そのあいだに、必要なものを持って出て行ってください。残りの荷物は送ります。宛先はあとで連絡してください。……ああ、僕のオフィスのほうに。秘書に伝えておきますので」
こわばった表情のまま、ひどく平坦な声でそう指示された。
今さら、あたしに対して、なんの感情を働かせるつもりもないみたいだ。
(もう、なにを言っても無駄だろうな)
あたしはあきらめて、部屋を出た。
雲雀さんは、ひと言も発さなかった。
今までお世話になったお礼でも言おうかと顔を向けたが、すっと視線を逸らされてので、余計なことはしないことにした。
(これ以上、傷つけたくない)
正直、あたしもすごいショックを受けていた。
自業自得なのはわかってる。
でも、こんなに自分の心臓の一部を、いきなり切り落とされたような気持になるなんて、思ってもみなかった。
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