21. 追放

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 部屋に戻り、なんだか頭のなかが痺れたような感覚のまま、当座の荷物を機械的にまとめた。  それを入れるために、クローゼットにしまっていたスーツケースを出そうとしたとき、それ(・・)に初めて気づいた。  クローゼットの裏側から、なぜか風が流れ出してきている。  あたしはどけたスーツケースの背後の壁に触れてみた。  風が吹き出している場所を探して、撫でるようにして指を滑らせていくと、ふいになにかが引っかかった。  指先にすこし力を入れると、壁の木材の一部が、向こう側にカタン、と落ちた。  携帯を持ってきて照らしてみると、丸い穴ができている。  さっき落ちたのは、どうやら蓋のような役割をしていたみたい。  直径五センチ程度の小さな穴なので、あまり詳しくは見えなかったけど、どうもこの穴の向こうには、長いパイプのようなものがつながっている感じ。例えとしては、水道管がつながっているような。 (なんだろう) (すごく、気になる)  でも、今はもう調べる時間はない。  心残りはあるが、しかたない。  あたしは荷物を詰め、家を出た。  もちろん、誰も見送りになんか出てきてくれてない。  なんだか鼻の奥が痛くなり、目が湿ってきた。 (バカみたいだから、泣くな)  あたしは自分に言い聞かせた。  こうなってしまったのも、全部、自分のせいだ。  いくら情を感じるようになっていたって、悲しませたくなくて潜入ルポをやめたいと思いだしてた、なんて言ったって、相手には通じないだろう。  そうして、あたしは螺旋邸を去った。
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