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部屋に戻り、なんだか頭のなかが痺れたような感覚のまま、当座の荷物を機械的にまとめた。
それを入れるために、クローゼットにしまっていたスーツケースを出そうとしたとき、それに初めて気づいた。
クローゼットの裏側から、なぜか風が流れ出してきている。
あたしはどけたスーツケースの背後の壁に触れてみた。
風が吹き出している場所を探して、撫でるようにして指を滑らせていくと、ふいになにかが引っかかった。
指先にすこし力を入れると、壁の木材の一部が、向こう側にカタン、と落ちた。
携帯を持ってきて照らしてみると、丸い穴ができている。
さっき落ちたのは、どうやら蓋のような役割をしていたみたい。
直径五センチ程度の小さな穴なので、あまり詳しくは見えなかったけど、どうもこの穴の向こうには、長いパイプのようなものがつながっている感じ。例えとしては、水道管がつながっているような。
(なんだろう)
(すごく、気になる)
でも、今はもう調べる時間はない。
心残りはあるが、しかたない。
あたしは荷物を詰め、家を出た。
もちろん、誰も見送りになんか出てきてくれてない。
なんだか鼻の奥が痛くなり、目が湿ってきた。
(バカみたいだから、泣くな)
あたしは自分に言い聞かせた。
こうなってしまったのも、全部、自分のせいだ。
いくら情を感じるようになっていたって、悲しませたくなくて潜入ルポをやめたいと思いだしてた、なんて言ったって、相手には通じないだろう。
そうして、あたしは螺旋邸を去った。
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