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その足で、あたしは重い足をひきずるようにしながら駅まで歩き、さびれたビジネスホテルに部屋を取った。
アパートはとっくに引き払っていたので、帰るところなんてもうなかったからだ。
ベッドと小さなデスクがあるだけの小さな部屋に入り、すぐに横になった。
もちろん、眠れるわけなんて、ない。
でも、身体を縦にしているのが……、たったそれだけの普段のことが、今はとても苦痛だった。
まるで身体中の細胞が灰色のコンクリートに代わってしまったような気持ちで、ただぼんやりと天井を見上げる。
(これから、どうしよう)
とにかく、稼ぐ手段を考えなきゃならない。螺旋邸で稼いだ給料なんて、すぐになくなる。
(新しい仕事、かあ……)
なんだか、頭ではわかっていても、気力がわいてこない。
潜入ルポをしようとしていた後ろめたさと、初めて入り込んだ家庭的な世界に対する愛着が、今になって急に勢いをつけて押し寄せてくるようで、それを受け止めるだけで精一杯だ。
ずっと、根無し草なのが当たり前で、むしろそれが快適で、これからもずっとそう生きていくんだと思ってた。
なのに、急にこのふわふわした状況に戻されたとたん、みっともなく動揺するなんて、思ってもみなかった。
肉体的なものではなくて、精神的なものだと思うけど、ひどく疲れていたあたしは、いつの間にか半覚醒のような状態で寝入ってしまった。
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