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肌寒さに目覚める。
カーテンを閉めてない窓の向こう、今では外の昏さが広がっている。
あたしは上半身を起こし、でもベッドから出る気も起きなくて、背中を壁に寄りかからせてだらしなく座った。
枕元に置きっぱなしだったスマホを取り、時間を確認する。
午後七時二十分。
夕食の時間だ。
(食欲、わかないな……)
どうしようもない状態を、なんとかしなきゃとなぜか焦りだけが募ってきた。
その勢いで、つい堀田さんにかけてしまった。
ほんとはそんなつもり、なかったのに。スマホを手にしたせいだ。
『おう、なんだ。久しぶりだな。順調か?』
さっそく、潜入ルポの成果を求めてくる。
あたしの口元が、意識しないうちに歪んだ。
『失敗、しました』
ひと言ひと言を区切るように言う。しばらく、沈黙が流れる。
『なにやってんだ!』
そして次に来たのは、叱りつけるの言葉だった。
『どうなってんだ、今、どこにいる』
「ホテルです。追い出されました」
『おいおい。そこまでバレたのか、なにやってんだ! まだロクなネタも仕入れてないってのにか!?』
「はい……。すみません」
あたしは思わず謝った。
よく考えたら、『ネタが必ずしも拾えるとは限らない』と最初に言ってたのは、堀田さんだったような気もするけど。
『それで、なにか使えそうなネタはないのか。一か月以上いたんだろ』
(うっ……)
たしかに、それを言われると弱い。
信用をしっかり得てから色々と調べるつもりでいたんだけど、快適な生活に流されて、結局たいしたことはできなかった。
『まあとにかく、もうすこし詳しい話を聞こうか。今日の夜、『半鐘』に来られるか』
「編集部の前のビルにある居酒屋ですっけ?」
『そうそう』
「行けますけど……」
『それじゃあ、八時ごろで、どうだ。俺はすこし遅れるかもしれないけど、先に呑んでてくれれば』
「わかりました」
(珍しいな)
こんな風に、あたしが記事を書くために協力してくれるなんてこと、今まではなかった。あくまでアドバイス程度のことを言われるだけだったのに、今回はどうやらけっこう力が入っているみたいだ。
最初は、あわよくば、という感じだったと思うんだけど。
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