22. 弟子失格

3/5
前へ
/189ページ
次へ
 肌寒さに目覚める。  カーテンを閉めてない窓の向こう、今では外の昏さが広がっている。  あたしは上半身を起こし、でもベッドから出る気も起きなくて、背中を壁に寄りかからせてだらしなく座った。  枕元に置きっぱなしだったスマホを取り、時間を確認する。  午後七時二十分。  夕食の時間だ。 (食欲、わかないな……)  どうしようもない状態を、なんとかしなきゃとなぜか焦りだけが募ってきた。  その勢いで、つい堀田さんにかけてしまった。  ほんとはそんなつもり、なかったのに。スマホを手にしたせいだ。 『おう、なんだ。久しぶりだな。順調か?』  さっそく、潜入ルポの成果を求めてくる。  あたしの口元が、意識しないうちに歪んだ。 『失敗、しました』  ひと言ひと言を区切るように言う。しばらく、沈黙が流れる。 『なにやってんだ!』  そして次に来たのは、叱りつけるの言葉だった。 『どうなってんだ、今、どこにいる』 「ホテルです。追い出されました」 『おいおい。そこまでバレたのか、なにやってんだ! まだロクなネタも仕入れてないってのにか!?』 「はい……。すみません」  あたしは思わず謝った。  よく考えたら、『ネタが必ずしも拾えるとは限らない』と最初に言ってたのは、堀田さんだったような気もするけど。 『それで、なにか使えそうなネタはないのか。一か月以上いたんだろ』 (うっ……)  たしかに、それを言われると弱い。  信用をしっかり得てから色々と調べるつもりでいたんだけど、快適な生活に流されて、結局たいしたことはできなかった。 『まあとにかく、もうすこし詳しい話を聞こうか。今日の夜、『半鐘(はんしょう)』に来られるか』 「編集部の前のビルにある居酒屋ですっけ?」 『そうそう』 「行けますけど……」 『それじゃあ、八時ごろで、どうだ。俺はすこし遅れるかもしれないけど、先に呑んでてくれれば』 「わかりました」 (珍しいな)  こんな風に、あたしが記事を書くために協力してくれるなんてこと、今まではなかった。あくまでアドバイス程度のことを言われるだけだったのに、今回はどうやらけっこう力が入っているみたいだ。  最初は、あわよくば、という感じだったと思うんだけど。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加