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『半鐘』は、ごった返していた。
カウンターと、テーブル席が三つある程度の、もともとあまり広い店じゃないし、かなりざっくばらんな雰囲気だ。
でもよくよく見ると、衝立などをうまく配置して、ほかの席の会話が聞こえにくいようにしてある。
たぶん、堀田さんの勤め先の出版社の人たち御用達の店なんで、こういう心遣いをしてるんだろう。
実際、何人かいる客はいかにもそっちの業界の人たち、といった雰囲気だ。
店をざっと見渡すと堀田さんはまだ来てないみたいなので、あたしは一番奥の空いていた席にひとりで座った。
店の人がお通しを持ってきたとこに、連れが後から来ることを伝えておいた。
とりあえず頼んだ生ビールをちびちび飲んでいるうちに、堀田さんがやってくる。
「おう。げっそりしてんな」
席に着くなりそう言いながら、お手拭きで顔を拭く。
店の人にすっかり覚えられているのか、注文もしてないのに、さっさとジョッキのハイボールが運ばれてきた。
「そうですね……。とりあえず、新しく住むところ、探さないと」
「ふーん。どうだ、これっきりにせず、もう一回だけ接触するつもりはないか? 記事にさえできりゃ、ホテル代もあとで経費で落とせるぞ」
どうやら、あたしが落ちこんでいるのは、取材ができなくなったせいだと思ったみたい。
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