23. 母を知る人 1

4/6
前へ
/189ページ
次へ
 裏路地に入り、すこし行ったところにあった店は、本当に小さかった。  看板も、壁に表札よりはすこし大きい程度の金属プレートがついているだけ。 (まず、一見(いちげん)さんは入ってこないタイプの店って感じだな)  鏑木さんに続けて入ると、カウンターに、テーブル席が二つの本当に小さな店だ。店員も、見るからに寡黙そうなマスターがひとり、カウンターの奥でひっそりと立っているだけ。  いかにも、内輪の人間だけがやってきて、『内緒話』をしやすいような雰囲気だ。  さっきまでいた『半鐘』もそうだったけど、やっぱり、記者さんなんかやってると、自然とこういう店がなじみになるのかな。  鏑木さんは軽く片手をあげてマスターに挨拶すると、慣れた様子で最奥のテーブル席に座った。 「なに、飲む?」 「鏑木さんは?」 「私はバーボンソーダ。いつもそうなんだ」 「じゃあ、私も同じものを」  頷いた鏑木さんは、ハンドサインのようなものを送った。それで十分通じるんだろう。 「さて。偶然の出会いを祝して」  酒が運ばれてくると、鏑木さんはそう言って、いったんグラスを合わせた。  それから、本題に入る。 「さしでがましいことかもしれないんだけど。もしかしてあなた、堀田さんと一緒に仕事してるの?」 「はい……。母のようなジャーナリストに育ててやるって、言ってもらって」 「留見子さんのように? 堀田さんが?」 「はい」 「ええ? おかしいなあ」  鏑木さんは、眉をひそめた。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加