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裏路地に入り、すこし行ったところにあった店は、本当に小さかった。
看板も、壁に表札よりはすこし大きい程度の金属プレートがついているだけ。
(まず、一見さんは入ってこないタイプの店って感じだな)
鏑木さんに続けて入ると、カウンターに、テーブル席が二つの本当に小さな店だ。店員も、見るからに寡黙そうなマスターがひとり、カウンターの奥でひっそりと立っているだけ。
いかにも、内輪の人間だけがやってきて、『内緒話』をしやすいような雰囲気だ。
さっきまでいた『半鐘』もそうだったけど、やっぱり、記者さんなんかやってると、自然とこういう店がなじみになるのかな。
鏑木さんは軽く片手をあげてマスターに挨拶すると、慣れた様子で最奥のテーブル席に座った。
「なに、飲む?」
「鏑木さんは?」
「私はバーボンソーダ。いつもそうなんだ」
「じゃあ、私も同じものを」
頷いた鏑木さんは、ハンドサインのようなものを送った。それで十分通じるんだろう。
「さて。偶然の出会いを祝して」
酒が運ばれてくると、鏑木さんはそう言って、いったんグラスを合わせた。
それから、本題に入る。
「さしでがましいことかもしれないんだけど。もしかしてあなた、堀田さんと一緒に仕事してるの?」
「はい……。母のようなジャーナリストに育ててやるって、言ってもらって」
「留見子さんのように? 堀田さんが?」
「はい」
「ええ? おかしいなあ」
鏑木さんは、眉をひそめた。
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