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あたしのそんな圧力を、嫌というほど感じているのか、鏑木さんは何度も咳払いをした。
でもとうとう、覚悟を決めてくれたらしい。
グラスの中身を一気に飲み干すと、ようやく口を開いた。
「知らないの。たぶん、留見子さん以外は知らないと思う。もしかしたら、あなたのお父さんでさえ」
「そんなもんなんですか」
「実は、当時、あたしも訊いたんだよね。結婚するんですか、って。その時に言われた。するつもりもないし、相手にも妊娠は伝えない、って。自分ひとりで育てるって」
「ええ……?」
あたしは思わず怪しむ声をあげてしまう。
そんな頑固な人だったのか。
(いや、頑固というか……、なんだろう?)
あたしは自分の胸の内に生まれた感情を、なんという言葉に換えればいいのかわからなかった。
ただそう考えると、しかたなくシングルマザーになったわけじゃなくて、そういう選択をした人だった、ってことか。
「もしかして……」
あたしは迷いながらも、ずっと抱いていた疑問を吐き出すことにした。
だって今訊かないと、ある程度事情を知っている人に出会える機会なんて、そうそうないだろう。
「堀田さんが、あたしのお父さんじゃないかとも思ったことがあるんですけど……」
鏑木さんはいったん目を丸くしたあと、笑い出した。
「それはないと思うな。たぶん海外の人なんだと思う。日本を離れてるあいだに妊娠したみたいだから」
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