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中は、奥にデスクがひとつと、手前にテーブルと長椅子ふたつのセットが置いてあるだけの、殺風景な部屋だった。
だいたいその長椅子にしたって、デザイナー家具っぽい洗練されたデザインはしてるけど、いかにも座り心地の悪そうな金属製で、どっちかと言うとベンチっぽい。
たぶん来客用だと思うんだけど、普通こういうのって、座り心地のよさそうなソファを置くもんじゃないのか。
なんていうのか、あんまりお客さんを歓迎するような雰囲気がないのは、すぐにわかった。
むしろ、『長居はやめてくれ』と強調してるようにさえ感じる。
(やっぱりウェルカム感がない……。なさ過ぎる)
あたしはあまりのとっつきにくい雰囲気に、ついつい気後れして、いつしか立ち止まってしまっていた。
「お入りください」
すると、落ち着いたトーンの声が聞こえた。
どことなく冷たさがある。
そう、そこのベンチの金属の種類のような。
それは、奥のデスクから聞こえた。
三枚もある大型モニターの向こうに座っているせいで姿が見えなかったが、まあ状況から考えて、これが部屋の主、面接相手の社長だろう。
「失礼します」
一歩進んで入ると、相手が立ちあがり、デスクのこちら側に回ってきた。
(あれ? 若い……)
たしか、高校生くらいの年齢の子を世話する仕事……じゃなかったっけ?
それくらいの子の親だから、もっと歳いってるかと思ってた。
見た感じ、二十代後半から三十代前半くらいに見える。
(顔は……、まあ、整ってるとは言える……のかな)
ただまあ顔立ちよりは、なんか賢そうな、デキる感じの雰囲気のほうが断然強い。
逆に言うと、バカにされたら最後、って気がする。
「あなたが、沖津棗さんですか。どうぞ、そこのベンチに座ってください」
(あ、やっぱベンチなんだ)
あたしは心の中で呟きながら、相手が反対側に座ったのを確認してから、腰をおろした。
「私は牧園爽希と言います。よろしくお願いします」
「は……、はい。よろしくお願いします」
頭を下げると、そこに、ヌッと手が伸びてきた。
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