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「そうなんですか……」
それはもう、今さら探すのはかなり難しそうだ。
「でもね。ちょっと、ほほえましかったな」
「え?」
「仕事ひと筋で、結婚なんてしてる暇ない、家庭を持とうなんて思わない、っていうのが、ずっと留見子さんの口癖だったんだけど」
「はあ」
さっきからの話を聞いてると、さもありなん、という感じだ。
あたしのあきれたような顔つきに気づいたのか、鏑木さんはフォローするような笑みを浮かべた。
「でもね。いざあなたが生まれたら、いろいろ考えたみたい。危険な取材は避けて、もうすこし人に寄り添うようなタイプの仕事へと徐々にシフトする予定だ、って言ってたの。その矢先に、交通事故で亡くなられたけど」
「そうだったんですか」
そんな話、堀田さんから聞いたこと、なかった。
あの人が話す母は、なによりも仕事が第一優先。だからこそ認められ、輝いていたのだ、という印象だった。
読ませてくれたいくつかの昔の記事も、容赦ない筆致で世の悪を糾弾する、といった調子の鋭く厳しいもので、そのイメージをさらに補強するようなものばかり。
でも、鏑木さんは違う母親像を知っているみたい。
今まで、そんな別の面があるなんて考えてもみなかったので、あたしは頭のなかを整理するのにしばらく時間が必要だった。
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