16人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ
それから、一か月ほどたったある日の朝、スマホのしつこい着信音で目が覚めた。
あれからあたしは小さなアパートを見つけ、派遣会社に登録して、なんとか食い扶持を稼ぐ暮らしをしていた。
なれない仕事を、しかもくるくる変えてなんとか一日を乗り切る生活にくたくたになり、やっときた休日にはとにかく寝まくるのがルーティーンになっていて、だからその唯一の楽しみを奪うスマホの音に、腹が立ってしかたなかった。
画面を見ると、堀田さんからだ。
(ホントは母とは決別したはず、って鏑木さん、言ってたな)
それがまず頭をよぎったが、出ないわけにもいかない。
「はい」
『おう。元気でやってるか』
「まあ、なんとか」
(わざわざ連絡してくるってことは、なにか新しい記事でも書かせてくれるのかな)
そんな能天気なことを思ったけど、甘かったみたい。
『おまえ、リベンジでもう一回だけ、牧園家に行ってみないか』
(うえっ)
PTSD……とまではいかないけど、たぶんそれに似たような痛みが、胸を締めつける。
「それは……、ちょっと……」
『いい資料が手に入ったんだよ。チャンスだって』
でも、あたしの気持なんか知ってるわけもない堀田さんは、なんだか興奮気味だ。
最初のコメントを投稿しよう!