3. ……は?

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 思わず窺うように顔を上げると、にこりともせずに、履歴書を、とだけ言われたので、さっそく手渡す。  牧園さんはそれにひと通り目を通してから、あいだのテーブルに置いた。 「今までは、事務のお仕事をされてたんですよね」 「はい」 「保育や、きょうだいの面倒を見ていたなどの経験は」 「ないです。私は独身ですし、天涯孤独なんで、子供もきょうだいもいないんです。ただ……」  あたしは、昔の生活を思い出しながら続けた。 「私は、施設で育ちました。そこには、色んな年齢の、色んな事情を抱えた、抱えさせられた、子どもだちがいっぱいいました。だから、もしそういう子がいても、普通の人よりはびっくりしないと思います」  これは正直な話だった。  それをどう捉えるかは、相手に任せるしかない。 「なるほど」  牧園さんは、そう答えただけだった。  肯定なのか、否定なのか、全然わからない。 (そういえばさっきから、あまり表情を変えないような気がする)  あたしを警戒しているのか、それとも、元々そういう性格なのか。  なんにせよ、なかなか扱いづらそうな人物ではある。
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