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その文字を読み取ったとたん、あたしの頭のなかを、色々な言葉と情景が、まるでごちゃまぜのミキサーの中身のように、ぐるぐると駆け巡る。
クロゼットの壁から吹いてくる風。
まるであたしと爽希さんの会話を聞いていたかのような、雲雀さんの態度。
前に歴史番組で見たことがある。とある国が昔栄えていた頃、情報を収集するために、外国から交渉に来た人々を泊める部屋に、会話を盗聴できるような穴の仕掛けを作っていたこと。
今まで、うすぼんやりとだけ感じてた違和感が、まるで今、一気に同じ流れになって、あたしに押し寄せてくるよう。
(ってことは、つまり……)
あの家で、まるで家族の一員になったように感じながら生活していたその裏で、あたしはずっと監視されてたのだろうか。
(ああ、あの時と同じだ)
夜逃げした工場経営者一家。
まるで家族の一員にでもなれたようなつもりで、勝手にはしゃいで、思い入れて、……結局、赤の他人だった、ってことを痛いほど思い知らされる。
懲りたはずだった。
でも、違った。
(また勝手に期待して、いい気にさせられて……)
(あたしって、バカだ)
なぜだか涙が滲んできて、目の前のポラロイドがよく見えなくなった。
でも、ふと気づいた。
(泣いていい立場じゃないよね。そもそも)
そうだ。
あたしはそもそも、堀田さんに頼まれて、牧園家の闇を探って記事にするのが目的だったはずだ。
取材対象に必要以上に入れあげて、真実の追及を怠るなんて、記者志望にあるまじき弱気なんだ。
(そうだよね)
だからあたしは、ポラロイドをバッグに入れ、あの家をまた訪ねてみることにした。
これを見るまでの弱気なんて、今のあたしにはもう、遠い感覚になっていた。
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