29. 螺旋邸ふたたび 2

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「でも、たしかにそうですね。もしもあの家で起こったことが、事故じゃなかったというなら、真相は明らかにされなくちゃいけないことですよね」  あたしはそう言ってみた。  嘘、じゃない。  ただ、それを追求する立場になることに躊躇があるだけで。  いつのまにか、あの人たちは、あたしが守りたいと感じる人たちになってしまっていることに、今さらながら気づく。  だから、芙蓉さんに心を許したわけじゃなかった。  でも、あたしはあまりにも情報を知らなすぎる。  せっかくのチャンスだ。話を聞けるだけ聞いておきたかった。  意地の悪いやり方かもしれない。でも、今さら、自分が善人だなんて思うつもりはない。 「そう、そう思うでしょ」  こう言ったことで、芙蓉さんはとりあえずあたしを味方認定したようだ。  話を続けた。  運転手も話がまとまったと判断したのか、ハンドルを握る手から力が抜けたのが見えた。 「そもそも、あいつらが存在してるのが間違いなのよ」 (おっと)  ずいぶんな言い方だ。 (存在自体を否定するなんて) 「だって、そうでしょ。正妻の子が産まれることが決まったのに、愛人に子供を産ませるなんて。間違ってる」 (うーん……)  正妻の立場からすると、こういう意見になるのも無理ないのかもしれないけど。 (でも、もう存在しているんだしなあ)  芙蓉さんは吐き捨てるような口調で続ける。 「あたしと結婚する前に関係を持っただけの女よ。きちんと整理するのが筋というものでしょう」 (いやいやいやいや) (なんか、あまりにも自分都合の話をする人だな)  あたしはちょっと呆れてきた。
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