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「でも、たしかにそうですね。もしもあの家で起こったことが、事故じゃなかったというなら、真相は明らかにされなくちゃいけないことですよね」
あたしはそう言ってみた。
嘘、じゃない。
ただ、それを追求する立場になることに躊躇があるだけで。
いつのまにか、あの人たちは、あたしが守りたいと感じる人たちになってしまっていることに、今さらながら気づく。
だから、芙蓉さんに心を許したわけじゃなかった。
でも、あたしはあまりにも情報を知らなすぎる。
せっかくのチャンスだ。話を聞けるだけ聞いておきたかった。
意地の悪いやり方かもしれない。でも、今さら、自分が善人だなんて思うつもりはない。
「そう、そう思うでしょ」
こう言ったことで、芙蓉さんはとりあえずあたしを味方認定したようだ。
話を続けた。
運転手も話がまとまったと判断したのか、ハンドルを握る手から力が抜けたのが見えた。
「そもそも、あいつらが存在してるのが間違いなのよ」
(おっと)
ずいぶんな言い方だ。
(存在自体を否定するなんて)
「だって、そうでしょ。正妻の子が産まれることが決まったのに、愛人に子供を産ませるなんて。間違ってる」
(うーん……)
正妻の立場からすると、こういう意見になるのも無理ないのかもしれないけど。
(でも、もう存在しているんだしなあ)
芙蓉さんは吐き捨てるような口調で続ける。
「あたしと結婚する前に関係を持っただけの女よ。きちんと整理するのが筋というものでしょう」
(いやいやいやいや)
(なんか、あまりにも自分都合の話をする人だな)
あたしはちょっと呆れてきた。
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