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着いたはいいけど、いざ家を目の前にしたら、あたしは車から降りる勇気が出ず、ひたすらもじもじしていた。
芙蓉さんはといえば、そんなことには一向にかまわず、さっさと降りると門の前に堂々と立つ。
(あの肝の座り方はある意味見習ったほうがいいのかもしれない)
相手の都合もなんのその、すごい勢いで呼び鈴を押している。
さすがにあたしもそれ以上は車に居座るわけにもいかず、しかたなく降りる。
芙蓉さんの背後に立った、まさにそのタイミングだった。
門が開き、志麻さんが出てきた。
「訪ねてこられても、困ります。お帰りになってください」
「あら。お客様に対して、ずいぶんな態度ねえ。使用人ふぜいが」
「使用人ふぜいであっても、爽希さんがお留守のあいだは、これでも全権を任されておりますので」
(おお。さすが志麻さん、負けてない)
そのかっこよさに、ついついにこにこしてしまっていると、志麻さんがあたしに気づいた。一瞬で不思議そうな顔になる。
「なにやってるの」
思わず、という感じで訊かれ、自分の立場にようやくハッとした。
(最悪だ)
志麻さんたちの信頼を裏切っておいて、今度は芙蓉さんの仲間に見えるような状況で戻ってきたわけだ。
申し訳なくて合わせる顔がない。
今さら思い至り、この場から走って逃げだそうとした、そのときだった。
『棗さんだけなら入っていいわよ』
インターホンから、ふいに声が響いた。
雲雀さんだった。
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