31. 螺旋邸ふたたび 4

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「この家は、もともとはあたしたちの母が、父にもらったものだった」  雲雀さんは説明を始めた。 「本当は、二人の新居になるはずだったんだって。でも、父は地方の名家の出で、故郷には親が勝手に決めた許嫁(いいなずけ)がいた。まあ、芙蓉さんのことだけど。だから、結婚を先に済まして既成事実を作るまでは実家にバレないように、母の名義にしたそうなの」 (うわあ、どこかで聞いた主婦向け実録ものみたい。あるんだなあ、そういうの)  あたしの頭のなかが見えたみたいに、雲雀さんは皮肉な笑みを浮かべる。 「で、結婚間近に、妊娠してることがわかった。……兄さん、ね。それで、急いで実家に報告に行くことにしたらしいの」 「ケジメをつけようとしたんですね」 「ところが、なのよね」  雲雀さんの笑みの苦みが、さらに深くなる。 「拉致られちゃったらしいのよね、そのタイミングで」 「はあ!?」 「まあ、実家だから、拉致って言葉はおかしいのかもしれないけど。一年間、座敷牢に軟禁されたとかなんとか」 「えええ……」  ちょっと信じがたい話だった。  でも雲雀さんはしごく真面目な様子だし、やっぱり、現実にあったことのようだ。 「そのあいだに、薬を盛られたとかなんとかで、芙蓉さんとのあいだに子供を作らされて、役場に婚姻届けも勝手に出されて……。戻ってきたときには、既婚者になってたってわけ。母はそのあいだに、しかたないから自分ひとりで出産を済ませたらしいけど」 「じゃあ……、雲雀さんたちのお母さまって……。芙蓉さん、あんな言い方してるけど……」 「そう。愛人だったわけじゃないの。割り込んできたのは、むしろ、あっち」 「そんな……」 (そんなの、むしろ、被害者なんじゃないの)  あたしは、なんだか腹が立ってきた。
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