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「じゃあ、集音管のことは……」
「あれは偶然知っただけ。前に雇った人が、あたし達の悪口をスマホで大声で話してるのが聞こえてきて、わかったの。それまでは、物静かな人しかいなかったから」
そこまで説明してから、雲雀さんはバツの悪い表情をした。
「前の人がひどかったんで、つい、棗さんのことも疑っちゃったの。それで悪いことだと知ってたのに、盗み聞きなんかして……。ごめんなさい」
ちょっとびっくりした。
まさか、謝られるとは思っていなかった。
「いえ、私こそ……。最初は下種な目的で、入り込んだりして……」
「でも結局、記事にはしないでくれた」
「はあ、まあ……。でもやっぱり、はじめの動機は不純でした。すみません」
なんだかついでというか、お返しというか、そんなタイミングになってしまったけど、とりあえず、謝ることができるこの機会ができてよかった。
(せめて、雲雀さんとだけなら、和解できるかもしれない)
そんな希望的観測が、あたしの心のなかに生まれたとき。
誰かが、玄関から入ってきながら、怒鳴りあう声が聞こえてきた。
(ああ……)
爽希さんと、芙蓉さんが言い争う声だ。
あたしの希望の灯は、あっというまに消し飛んでしまった。
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