32. 螺旋邸ふたたび 5

3/4

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/189ページ
 とりつく島がない。でも、しかたない。  あたしは雲雀さんにとりあえず謝れただけでもよかったと、あきらめて芙蓉さんの傍に行った。  この家の秘密の片鱗が写っているポラロイドは、雲雀さんに渡したままにすることにした。  あたしが失くしたってことにして、堀田さんに謝ればいい。  牧園家に対する、あたしからのせめてものお詫びだ。 「行きましょう」  あたしは、芙蓉さんの腕を握る。  爽希さんは、あたしたちを見たくないのだろう。  用事は済んだとばかり、さっさと背を向け、螺旋階段を登り始めた。  その冷たい態度が、余計に刺激したのかもしれない。 「なによ、ちょっと、離してよ」  芙蓉さんの声が、一オクターヴ高くなった。 「爽希さんも、関わりは持たないと言ってるじゃないですか。もうあきらめたほうが、お互いのためじゃないんですか」 「あんたになにがわかるのよ!」  そう叫ぶと、芙蓉さんはあたしの手を振り払い、螺旋階段に走り寄った。 「ちょ、ちょっと、待って……!」  あたしは慌ててついていくしかない。  でも追いついたときには、芙蓉さんはとっくに階段を駆け上がっていた。  あまりの勢いに、爽希さんは足を止め、振り返る。
/189ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加