33. リプレイ

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 ろくに考えもしなかった。  それより前に、身体が動いていた。  あたしは爽希さんのひとつ下の段にしゃがみ、必死で芙蓉さんの片方の手首を両手で掴み、爽希さんの首から離させた。  ズンッ……! と漫画の描き文字でも出てきそうな衝撃が腕に来たが、無事な支柱の一本に足を突っ張り、全身を使って握った腕をふるう引っ張り、なんとか耐える。  そう、まるで綱引きをしているときのような姿勢だ。 「爽希さん!」  そうしながら隣に呼びかけるが、まともに反応できる状態にないみたいだ。  無理もない。  大の大人の全体重が、首にかかっていたんだから。それにまだ、片手はかかったままだ。 「芙蓉さん、その手を離して、段に手をかけて!」  あたしの叫びに、芙蓉さんも必死に従った。  でも、さっきの比じゃない重量があたしにかかってきて、結局引きずられてしまう。 「あっ、あっ……!」  こんな時、『助けて』なんて言葉、言ってる余裕がないなんてこと、初めて知った。 (落ちる!)  頭のなかにはその恐怖だけが満ちていて、ほかのことが入る余地なんてない。 (もう、ダメだ)  頭が宙に出たせいで、下から見上げている雲雀さんがよく見える。  目を見開きながら、でも、なぜか両手を広げている。 (まさか、自分をクッション代わりにするつもり!?)  そう気づいたとたん、頭が急に冴えてきた。
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