34. あの日のこと 1

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 それからしばらくのあいだ、誰もなにも言わなかった。  正確には、言う余裕がなかった。  芙蓉さんは必死にあたしにしがみつき、あたしは腕をぶるぶる震わせながらもなんとかそのままを維持し、爽希さんは落ちかけていたあたしの身体を、ゆっくりとではあったけど、確実に引き戻してくれた。  ある程度まで戻ったら、あたしも足をはずすことができるようになったので、痛みはずいぶんましになる。  爽希さんもいつしか芙蓉さんの身体を直接抱えられるようになると、とたんに楽になった。  そして、なんだかすごく間延びした感覚の時間が過ぎたころにようやく、三人ともが階段の途中に座り込んで、ぜぇぜぇと激しく音を立てながら、必死で息を吸っていた。 「ちょっと、大丈夫なの!?」  やがて下から雲雀さんの声が響いてきた。  どうなったのか見えないので、心配しているのだろう。苛立ちもすこし混じった声だった。 「だ、大丈夫、です……」  あたしははずれている手すりの隙間から顔を出し、それだけをとりあえず報告した。  目に見えて、雲雀さんの肩の強張りがほぐれる。  でも、あらためて手すりの状態を見ると、恐怖がよみがえってきた。  物理的、というよりむしろ、精神的なもの。 (事故死じゃなかったんだ)  殺人が起こったという、それを起こした人が目の前にいるという、恐怖。  しかも、親近感を抱いていた相手が。
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