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「父が生前、あのからくりを強迫観念的に作ったときには、正直、大げさだと笑いました。殺されそうになったら階上に誘導して、あのからくりを使って相手を落とせ、と何度も言い聞かされました。でも、あの頃の僕は、まさかそこまでひどいことをあなたたちがやってくることはないだろうと、たかをくくっていたんです。それがどんなに甘い見通しだったのか、あのとき、思い知りましたが」
あんまりな話に、あたしは言葉が出なかった。
さすがに芙蓉さんも、茫然としている。
まさか自分の溺愛する息子が、そんなことをしていたなんて、思ってもみなかったようだった。
「ただ、ひとつだけ誤算がありました」
爽希さんの目つきが、暗くなる。
「あいつは落ちるとき、雲雀の長い髪を掴みました。そのせいで、一緒に……」
それ以上は言うにしのびなかったのだろう。爽希さんの言葉が途切れた。
(雲雀さん……)
ふと気づいて、あたしは階下に目をやった。
彼女にとって、おそらくトラウマになる出来事の話を、今、している。
大丈夫か、心配になったのだ。
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