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でも、あたしのそんな感情は、余計なお世話のようだった。
雲雀さんは、じっとしたまま、階上から聞こえてくる爽希さんの声に、静かに耳を傾けていた。
(ああ……、もう、色んなものを、乗り越えた人の強さか)
雲雀さんがいつも凛としていたわけが、なんだかわかった気がする。
年齢の割に、落ち着いて思慮深い性格なのも。
「わかりますか。世界を疑う必要なんてなく、ただただ輝く青春を謳歌しているのが当然の年齢のときに、病院に長いあいだ閉じ込められ、一生自分の足では歩けないと言われ、さらには妊娠までさせられて、あげく流産した、十五歳の少女の気持が」
(なんて、ひどい)
さすがに芙蓉さんも、なにも言えないようだった。
それどころか、あれだけ強気を漲らせていた視線を、爽希さんからすっと逸らした。
「もう一度言ってもいいですか。僕は彼にしたことは、後悔していません。もしまた同じ場面に出逢えば、同じことをします。ただひとつ、雲雀が落ちないようにできなかったことだけは、今でも悔いていますが」
「……人殺し!」
芙蓉さんは、最後の抵抗とばかり、絞り出すように言う。
でも、前のときのような勢いが、ない。
「そうですね。僕は人殺しです。……でも」
爽希さんは芙蓉さんを指さした。
「あなたは、その、原因だ」
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