35. あの日のこと 2

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 でも、あたしのそんな感情は、余計なお世話のようだった。  雲雀さんは、じっとしたまま、階上から聞こえてくる爽希さんの声に、静かに耳を傾けていた。 (ああ……、もう、色んなものを、乗り越えた人の強さか)  雲雀さんがいつも凛としていたわけが、なんだかわかった気がする。  年齢の割に、落ち着いて思慮深い性格なのも。 「わかりますか。世界を疑う必要なんてなく、ただただ輝く青春を謳歌しているのが当然の年齢のときに、病院に長いあいだ閉じ込められ、一生自分の足では歩けないと言われ、さらには妊娠までさせられて、あげく流産した、十五歳の少女の気持が」 (なんて、ひどい)  さすがに芙蓉さんも、なにも言えないようだった。  それどころか、あれだけ強気を漲らせていた視線を、爽希さんからすっと逸らした。 「もう一度言ってもいいですか。僕は彼にしたことは、後悔していません。もしまた同じ場面に出逢えば、同じことをします。ただひとつ、雲雀が落ちないようにできなかったことだけは、今でも悔いていますが」 「……人殺し!」  芙蓉さんは、最後の抵抗とばかり、絞り出すように言う。  でも、前のときのような勢いが、ない。 「そうですね。僕は人殺しです。……でも」  爽希さんは芙蓉さんを指さした。 「あなたは、その、原因だ」
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